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広島家庭裁判所呉支部 昭和33年(家)485号 審判 1958年11月10日

申立人 満田仁(仮名) 外一名

主文

第一、本籍広島県○市○○町○○○○番地筆頭者白石義一の戸籍中

(1)  弟博男の戸籍につき

(イ)  表示欄弟とあるを弐男と

(ロ)  父母欄父亡白石松蔵母亡ユミ四男とあるを父満田仁母トリ弐男と

(ハ)  身分事項欄出生届出事項中父白石松蔵届出とあるを同居の親族白石松蔵届出と

それぞれ訂正し、これを本籍広島県○市○○町○○○○番地筆頭者満田仁の戸籍に移記した上、移記前の戸籍を除籍し

(2)  弟高弘の戸籍につき

(イ)  表示欄弟とあるを参男と

(ロ)  父母欄父亡白石松蔵母亡ユミ五男とあるを父満田仁母トリ参男と

(ハ)  身分事項欄出生届出事項中父白石松蔵届出とあるを同居の親族白石松蔵届出と

それぞれ訂正し、これを本籍広島県○市○○町○○○○番地筆頭者満田仁の戸籍に移記した上、移記前の戸籍を除籍し

第二、広島県○市○○町○○○○番地筆頭者満田仁の戸籍中

(1)  弐男次夫の戸籍につき

(イ)  表示欄弐男とあるを四男に

(ロ)  父母欄の下に弐男とあるを四男に

(2)  参男晃の戸籍につき

(イ)  表示欄参男とあるを五男に

(ロ)  父母欄の下に参男とあるを五男に

それぞれ訂正することを許可し

第三、広島県○市○○町○○○○番地筆頭者白石松蔵の除籍その他関係除、戸籍を第一、第二の趣旨に従つて訂正することを許可する。

理由

申立人等は主文同旨の審判を求め、その原因とする事実関係を次の通り陳述した。事件本人両名は本来申立人等の実子である。しかるにこの両名が申立人トモの実父母である白石松蔵、ユミの嫡出子として戸籍に記載されているのは、白石松蔵、ユミには女子の外に唯一の男子幸一があつた。ところがこの幸一が大正八年三月○○日兵庫県○○町沖合で海難によつて死亡してしまつた。相続人を失つた松蔵夫婦は悲嘆に暮れ、側で見るに忍びない程であつたがこれに同情した申立人等は松蔵夫婦の要望にこたえて申立人仁は満田家の推定家督相続人であつたにかかわらず白石家に入り事実上白石家の相続人として松蔵夫婦に仕えてこれを慰めた。その頃申立人等夫婦は順次事件本人等両名を出産したけれども申立人仁の父広治は、同申立人等夫婦の行動を快しとせずそのため事件本人等を満田家の孫として入籍することを戸主権により拒否したので、申立人トシの父母松蔵夫婦はやむなく事件本人等をそれぞれその四男五男と装つて出生届出をするに至つたためである。このように事件本人等は白石松蔵夫婦の子として仮装せられたに過ぎず、真実は申立人等両名の子である。事件本人等両名は共に今次戦争で妻子なくして戦死したので、真実に従えば申立人等は遺族として恩給法による扶助料を受け得るにかかわらず戸籍面が白石松蔵夫婦の子と仮装されているためわが子の形見ともいうべき扶助料を受けることができない。そこで真実に適合するよう戸籍の訂正手続がしたいので申立の趣旨のような裁判がしてほしい。

そこで当裁判所が、記録添付の除、戸籍謄本四通並に家庭裁判所調査官高橋昌之の調査報告書、証人松井カズヨの手控張(事件本人高弘の出産記事)の各記載を審査し、証人沖島ミヨ、松井カズヨ、岡庭ハジメ及び申立人両名を訊問した結果を総合すれば、申立人等主張の事実関係の真実性を肯認することができる。

さてこのような場合、戸籍法第一一三条による戸籍訂正手続により戸籍の訂正ができるかどうかの問題について、このような場合は所詮戸籍に仮装せられた親子の身分関係不存在確認の実質を有するものであり、このような関係は身分関係を確定する訴訟によつて決せられるべきものであるし、この請求権は当事者にのみ与えられた権利で、現行法上当事者の一方又は双方が死亡した後は身分関係確定の訴訟を提起する途がないのである。しかるにこれを身分関係確定の裁判によらず、直に戸籍訂正許可の裁判により、しかも利害関係人の請求によつて身分関係確定と同一の結果を生じさせることは許されないとする消極的見解がある。しかし当裁判所は(1)戸籍の訂正は真実に適合する身分関係が戸籍簿によつて公証されることを理想とする戸籍法の要請に基く手続であること。(2)戸籍法第一一三条は他に身分関係確定の裁判を受ける方法のない場合でも身分関係確定を前提とする尸籍訂正は除外する趣旨ではないこと。(3)真実を発見し誤つた法律関係を是正することは司法裁判所の根本的使命であること等の理由により一部実際家とともに積極的見解に従うを相当と思考する。そこで本件申立を理由ありとし参与員桐原松雄、熊谷清子の意見を聴き戸籍法第一一三条により主文の通り審決する。

(家事審判官 太田英雄)

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